「コミュニケーション」ということばが日本で注目を集めるようになって久しいが、コミュニケーション研究や教育、またその基盤となる哲学的議論が確立されるには至っていない。本書は、日本のコミュニケーション学の歴史、現在関心を集めている課題や研究法、そして今後の展望を、それぞれの執筆者が簡潔に、また豊富な研究経験を活かして書き下ろした、専門性の高い１冊である。対人、異文化、組織、レトリックなど、研究を牽引してきたコミュニケーション領域の代表的な軸を中心に、全６部の構成。

---まえがきより---
・文化を異とする相手との関わり合いが日常的になってきた今日のグローバル化社会、続く「異文化コミュニケーション」の部では「文化」という大きな概念のとらえ方に新しい光を当てている。異文化は外国とは限らない。日本国内でも地域、世代、性、さらには職業や所属する会社、学校が異なれば文化の差異を認めることができる。また、文化とはあらかじめ作られ、あるグループの一員として認められるために受け入れなければならないもの、と考えるのではなく、人間の日々の表象行動によって形成、変化させられ、その発展に影響を与える行動、思考の枠組みと考えたい。同時に文化という枠組みから日常の社会行動の意味づけが行われているのも確かで、文化とコミュニケーションとの双方向の関係を考えるのが異文化コミュニケーションの研究である。

・「コミュニケーション教育」の部は文字どおりコミュニケーションと教育との関連を中心に展開している。ただし、コミュニケーションの教育と、教育におけるコミュニケーションとは区別して考える必要がある。自分の考えを適切で効果的なメッセージに託して表現し、相手からのメッセージを正確に認知、理解、判断する能力の向上を目指す上での諸問題を研究するのがコミュニケーション教育である。また、科目や目的に関わらず、教育の場では必ず教える側と教えられる側との人間関係がその効果に大きな影響を与える。いじめ、校内暴力、アカデミック・ハラスメント、モンスターペアレンツなど、教育を舞台とした人間関係の問題を、コミュニケーション学の立場から研究することは今後の重要課題である。

・コミュニケーション研究の世界で最も長い歴史と、研究の基盤、それに基礎的概念を提供してきたのが「レトリック」である。本書に一貫して流れる表象の概念の源がレトリック研究と考えられるので、他の領域の後に置くことによって、レトリック研究のコミュニケーション研究への貢献と、これまでの足跡について改めて確認することができる。公的状況でどのような表現を使って自分の主張に動きやインパクトを与えられるか、という狭い意味での修辞学の考え方から、レトリックとは人間がことば、非言語の表象を用いて真理を探究する過程である、という考え方までも包含するのがこの分野である。ことばによって構築されるカ関係や、社会でのさまざまな差別など、レトリックが人間の日常生活と密接な関わりを持っていることが理解できる。
（編集責任者・宮原哲）
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（執筆者）
宮原哲、大坊郁夫、花木亨、日高勝之、池田理知子、井上奈良彦、板場良久、柿田秀樹、河合優子、北本晃治、清宮徹、小西卓三、丸山真純、松本健太郎、松本茂、守﨑誠一、師岡淳也、灘光洋子、内藤伊都子、中川典子、中西雅之、中西満貴典、鈴木志のぶ、鈴木健、高井次郎、山口生史、吉武正樹