これは、その名のとおり「チェコ語の基本」を身につけるお手伝いをする本です。基本ではありますが、チェコの新聞、雑誌、小説などを読んだり、演劇や映画を楽しんだり、あるいは自分の感想や意見をチェコ語で述べたり書いたりするための下地作りを目指しています。そのために必要なものは、語彙と文法です。でも、両方を一気に身につけることは、なかなか大変な作業です。そこで、この本は語彙数を限定して文法を中心に紹介することにしました。
　チェコ語の文法、つまり文を組み立てる規則は、なんとなく身につけてふだん使っている日本語とはずいぶん違います。また、英語とも違っています。英作文をする時と比べて、妙なところに気を遣わないと文ができなかったり、かと思うと「どっちでもいい」なんて鷹揚な部分もあったりで、不思議な感じがすることでしょう。英語以外の外国語を学習したことのある人にとっても同じことです。文を組み立てるとき、これまでに学習した外国語とどこが似ていてどこが違うのか、そのような類似や違いを楽しみながら学習していただけたらと思います。

　この本は大きく分けて２つの部分から構成されています。
　第１部は入門編です。文字と発音を８課に分けて少しずつ学びながら、簡単な文も覚えていきます。発音の目安として第１部にはルビが振ってありますが、付属の 音声をめいっぱい活用してください。第８課を終えてそれまでのまとめの「応用と実践」に入るころには、名前や職業を伝えるといった必要最小限の自己紹介ができるようになっています。第１部は１課あたり４ページ、覚える単語は10個ですので、無理なく確実に進めることでしょう。
　第２部は初級編で、基本文法とその文法事項を盛り込んださまざまな文を本格的に学びます。ここからは、１課あたり６ページです。冒頭に例文が平均して５つから６つ挙げられています。最初はその課の目標を知るために、音声 を聞きながら日本語訳に目を通せば充分です。その下に覚えるべき単語が20個あります。これもとりあえず 音声 を聞いて発音してみるだけにとどめて、次のページから始まる解説に進みます。解説の中の例文を見て単語が分からないときは、その課の最初のページに戻って確認してください。もしそこにはないのなら、すでにどこかで出てきた単語です。２４０～２４９ページのチェコ語・日本語語彙集を見れば、意味と初出課が分かります。各課の６ページ目は練習問題です。日本語からチェコ語に訳す問題のために、２５０～２６２ページに日本語・チェコ語語彙集が、２０８～２１４ページには語形変化表がついています。第２部は４課ごとに「応用と実践」が出てきます。こうして、必要に応じて戻りながら進むということを繰り返しながら最後の第３２課まで仕上げれば、中級文法への橋渡しをするレベルにまで到達できます。
　最後に理解度がチェックできる最終確認テストをつけました。自己採点できますので、挑戦してみてください。

この本で勉強しても、「ノリよく楽しく進んでいるうちに、いつのまにかチェコ語がペッラペラ！」なんてことはまず起こりそうにありません。旅行にすぐに役立つ気のきいた表現も出てきません。でも、旅先あるいは会話集でそんな表現に出会ったとき、その組み立て法は分かる力がついています。すてきな表現をいくつか丸ごと覚えるよりも、ずっと大事な力です。これがあれば、次からはちょっと単語を入れ替えて自分なりに表現してみることもできます。本気でチェコ語を学ぶ人を文法面から確実に支える本、それが『チェコ語の基本』なのです。
最後になりましたが、標準的な発音で音声を吹き込んでくださった東京外国語大学非常勤講師の立古ダニエラさんに感謝いたします。

金指久美子