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作家論シリーズ アメリカ文学との邂逅

更新日:2020.03.27

週刊読書人ウェブ(2019/9/20)読書人紙面掲載 特集にて、執筆者と推薦者による寄稿が掲載されました。全4回。下記リンクからご覧ください。

50年後にも読まれる21世紀の「作家論」を目指して


 20世紀以降を代表するアメリカ文学を作家ごとに論じる〈アメリカ文学との邂逅〉。第4弾はコーマック・マッカーシー。


『コーマック・マッカーシー 錯綜する暴力と倫理』 山口和彦

 本書はコーマック・マッカーシー(Cormac McCarthy, 1933- )の小説十一作(一作は実質的にはシナリオ)を論じ、「暴力」表象と「倫理」的洞察という、マッカーシー作品に特有の問題系を探究する試みである。(章ごとに作品論を構成してもいるので、どの章から読んでいただいてもかまわない)。
 マッカーシーは現代アメリカ小説を代表する作家でありながら日本ではあまり馴染みのない作家であると同時に、アメリカでもその素顔は長らく謎に包まれていた作家である。たとえば、カトリック教徒でありながら反カトリック的とも言える世界観を強調するのはなぜなのか、約四年間の従軍経験がありながら戦争はおろか軍隊生活についてほとんど書かないのはなぜなのか、想像を絶する暴力や貧困を描く際に南部社会の人種差別の問題を絡めないのはなぜなのか、といった本質的な問いに対して、マッカーシーその人についての限られた情報から満足のいく答えを導き出すことはきわめて困難である。したがって、序章では、現時点で入手可能な作者の伝記的情報をたどりながら、その生涯と作品の傾向をゆるやかに関連づけ、マッカーシーの小説すべてに通底する「暴力」と「倫理」という主題への入り口としたい(マッカーシー作品には、小説以外にも戯曲やシナリオなども存在するが、紙幅の関係上、本章で言及するにとどめる)。このことの是非はさておき(というのも、マッカーシー自身の思想と、作品が醸し出す人種観・階級観・ジェンダー観等を結びつけることは、むしろ作品自体の理解を歪めかねない側面があるからなのだが)、そうすることで、生死にまつわる圧倒的でカオス的な感覚に満ちたマッカーシー文学の本質を理解する一助としたい。
(「序章――コーマック・マッカーシーの人と作品」より)

序章 コーマック・マッカーシーの人と作品

第1章 『果樹園の守り手』——「保守」の倫理と市民的反抗の精神

 「保守」と市民的反抗の精神
 ニューディール・リベラルの暴力性と「保守」
 レッドブランチ前史——アイルランド、ウィスキー暴動、北軍についた南部人
 コンフォーミストからアンチノミアンへ
 イニシエーションと「掟」の創造への意志

第2章 『外なる闇』——南部ゴシックとグノーシス主義の世界像

 南部ゴシックへの定位
 「グロテスク」と/な「他者」
 時空間の飛翔とグノーシス主義的「無知」
 彷徨の果ての「悪」と「暴力」
 グノーシス主義的心性とゴシック

第3章 『チャイルド・オブ・ゴッド』——暴力と帰還する聖なるもの

 暴力と聖なるもの
 暴力の主体と共感のベクトル
 否定される共同体の自由意志と聖化される暴力
 涙と暴力の詩学
 あなたによく似た神の子

第4章 『サトゥリー』——自己探究と「父」なるものの影

 ゴシック都市ノックスヴィルと死への妄執
 告白としての小説と自己探究の方法としての堕落
 「父」なるものとの和解なき離別と、逃れえないその影

第5章 『ブラッド・メリディアン』——暴力表象と倫理の行方

 小説と暴力表象
 「成長」しない少年のウェスタン・ビルドゥングスロマン
 砂漠、狼、戦争
 暴力の弁証法と倫理の行方
 ポスト・ヒューマンの倫理に向かって

第6章 『すべての美しい馬』——冷戦カウボーイと「永遠へのノスタルジア」

 冷戦カウボーイのイデオロギー
 「テキサス」を去る
 「永遠へのノスタルジア」と独我論的自己
 裁かれる冷戦カウボーイ
 砂漠へ

第7章 『越境』——「剥き出しの生」と証人の責務

 狼の舞と啓示体験
 シートン的パラドクスと「狼」のロマンティシズム
 自然の無関心と、狼(人間)=ホモ・サケルの身体
 高慢の罪と証人の責務
 永遠の証人と倫理の起源

第8章 『平原の町』——夢のなかで他者への倫理的責任は始まる

 同時代的文脈と『国境三部作』の起点
 アメリカ的自己と他者としてのメキシコ
 他者への倫理的責任と供犠の意味
 夢のなかの責任と証言する者

第9章 『血と暴力の国』——例外状態、戦争、宿命論と自由意志

 「例外状態」としてのアメリカ
 後景化される「戦争」
 宿命論と自由意志のあいだ

第10章 『ザ・ロード』——崇高の向こう側

 終末論的世界の倫理
 夢と記憶の危険
 言葉とカニバリズム
 崇高の向こう側

第11章 『特急日没号――劇形式の小説』――“You See Everything in Black and White”

 グローバル資本主義の精神とポストモダン文学の倫理
 ポストモダン都市ニューヨーク
 弁証法的関係の緊張と脱構築される主体
 ポストモダンにおける倫理の主体・主体の倫理


あとがき
年譜
キーワード集
主要文献リスト
索引


著者

山口 和彦(ヤマグチ カズヒコ)

1971年生まれ、上智大学文学部卒業。同、文学研究科英米文学専攻博士前期課程修了。ペンシルヴァニア州立大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。現在、上智大学文学部英文学科准教授。
共編著に『アメリカ文学と映画』(2019年、三修社)、『揺れ動く<保守>――現代アメリカ文学と社会』(2018年、春風社)、『アメリカ文学入門』(2013年、三修社)、『アメリカン・ロマンスの系譜形成』(2012年、金星堂)、共著に『幻想と怪奇の英文学II』(2016年、春風社)、『交錯する映画――アニメ・映画・文学』(2013年、ミネルヴァ書房)などがある。


 好評既刊



『カート・ヴォネガット トラウマの詩学』 諏訪部浩一 著

20世紀後半のアメリカで多くの読者に愛され、日本でも翻訳が多く出版され読まれている作家のひとり、カート・ヴォネガット。

本書では、第2次世界大戦のドレスデン無差別爆撃を体験したヴォネガットのトラウマとの戦いの歴史をたどりながら、その作品を包括的に批評します。

長編を出版順に論じ、ヴォネガットのトラウマとの関わりかたの変化を、多くの先行研究をもとに紐解きます。

巻末には、豊富な文献リストを簡明な説明を付して掲載。



『トマス・ピンチョン  帝国、戦争、システム、そして選びに与れぬ者の生』 永野良博 著

『V.』『メイスン&ディクスン』『重力の虹』等ピンチョンの長編、中編作品のなかで扱われる、越境的な想像力が描き出す近代化と現代の様相を読み解く。また、主流派から排除された選びに与れぬ者たちの系譜とシステムに抗う生について論じる。

巻末には、簡明な説明を付した、豊富な文献リストを掲載。



『チャールズ・ブコウスキー  スタイルとしての無防備』 坂根隆広 著

酒と放浪生活に明け暮れ、パンクでカルト的な作家として知られるチャールズ・ブコウスキー。本書では短編・詩集・小説など数々の作品批評を通じて「無防備で」「めちゃくちゃな」ブコウスキーの自意識あるいは自己のあり方を考察する。

巻末には、簡明な説明を付した、豊富な文献リストを掲載


シリーズ装幀

宗利淳一


シリーズ監修者

諏訪部 浩一(スワベ コウイチ)

1970年生まれ。上智大学卒業。東京大学大学院修士課程、ニューヨーク州立大学バッファロー校大学院博士課程修了(Ph.D.)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授。
著書に『A Faulkner Bibliography』(2004年、Center Working Papers)、『ウィリアム・フォークナーの詩学―一九三〇-一九三六』(2008年、松柏社、アメリカ学会清水博賞受賞)、『「マルタの鷹」講義』(2012年、研究社、日本推理作家協会賞受賞)、『ノワール文学講義』(2014年、研究社)、『アメリカ小説をさがして』(2017年、松柏社)、編著書に『アメリカ文学入門』(2013年、三修社)、訳書にウィリアム・フォークナー『八月の光』(2016年、岩波文庫)など。


以下続刊も第一線のアメリカ文学研究者による、作品を中心に据えながら作家のキャリア全体を捉えた評論が続きます。どうぞご期待ください!


順次刊行予定

『ティム・オブライエン』 渡邉真理子

『ポール・オースター』 下條恵子

『アーシュラ・K・ルグィン』 佐々木真理

『ジェイムズ・ボールドウィン』 辻 秀雄


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『アメリカ文学入門』 

植民地時代からポスト冷戦期まで、100人の作家を通してアメリカ文学を網羅的に紹介。

「アメリカ文学、何から読めばいいかわからない」人にむけたガイドブック。

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